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『手紙をかいて』

圭吾に螢子は手紙を書いていた。

かわいらしい丸文字。

ラインでは見られないまろやかなライン。

弟の圭太が盗み見てしまったのは、偶然であるが、必然でもあった。



圭吾と高校で出会ってから、半年やけど、一生好きやけん。

いっつも、けんかばかりやけど、一生好きやけん。



弟は螢子の顔を想像した。

喧嘩っ早い兄に似て、気が強いのだろうか。

双子の兄の彼女とは、まだあったことがなかったが、自分のことのように、思えてならなかった。

兄の文字に似ている。

圭吾は喧嘩っ早いくせにかわいらしい文字を書くのだ。

圭太はふっかけられるばかりだったが、枠からはみ出る字ばかり書いていた。

字はその人の姿のひとつになっていく。

言葉は、その人の、行動のひとつに。

そうして、文脈は、その人の人生になっていく。

螢子の顔が見えてきた気がした。

丸い文字に隠された言葉の強引さ。

彼女は、圭吾に似ているのだろう。

圭太はそう思いながら、圭吾と違った半年をすごしていたことに、気づいた。

圭太には手書きの手紙はなかった。

圭太には、ラインの罵倒のともがあった。

丸くない、いつまでたっても収まらない、罵倒の文字列。

人の手を介した文字には、人肌と人の感情が乗り移っている。

機械仕掛けの文字には、ただ、感情が先走りして、どこまでも、終わらない土壷であった。

過去の戦争犯罪に向き合えと宣う輩の物言いに似ている。

あるいは、ヘイトヘイトと寄ってたかって、罵声を浴びせかけて、己だけ何を言おうが守られると思っているものたちの、身勝手な物言いに。

慰安婦問題だとか、不可逆的な合意だとか言ってる大人が滑稽に見えた。

馬鹿じゃないだろうか。

証言がころころかわるのを尻目に、国内には都合のいいように言って、己の身を正当化するもの。

醜い。すべてが、醜い。

金目といわれようが、名誉回復と言われようが、醜いものは醜い。

戦場で一緒に戦った売春婦をほめ讃えよというのも無理がある。

たとえ売春婦でも、一緒に戦ったものは、心(しん)があるんだと。

ただ金と国と国と人と人が生き残るために戦って、死んでいったことを、美化する訳にはいかない。

守りたいものがあるにしろ。

美化だけはするな。

心底、気色が悪いから。



圭太は、手紙を書いてみようと思った。

螢子には届くはずもないが、螢子のような、圭吾のようなものに対して。



圭吾と生まれた時から出会ってたけど、一生つきあうけん。

いっつも、けんかばかりやけど、一生つきあうけん。

お前たちのことを、一生好きかはしらんけど。

よかった。

お前たちは、自分たちに正直やけん。

美化もせん。

そのまんまやけん。

よかった。

お前たち、一生いっしょにいてくれや。

わかれたとしても、一生いっしょにいてくれや。

俺も、一生、つきあうけん。




by akikomichi | 2016-02-11 23:22 | 詩小説 | Comments(0)