2014年 12月 15日
ごまかすな朝日
だが、産経新聞の阿比留瑠比編集委員らが再三、従軍慰安婦問題や、福島第1原子力発電所事故時に所長命令違反があったなどとした一連の誤報について質問したが、特に慰安婦問題の「吉田証言」に関する記事については、第三者委員会が検証作業中であるとして明確な回答は避けた。ただ「第三者委の提言が出た後に、社の対応をまとめて説明する」とも述べた。
大阪本社社会部長、同編集局長を歴任した渡辺氏。古くは東京大学出身者を中心に政治部と経済部から交互に社長を出してきた朝日にあって、千葉大学卒、大阪本社社会部出身者は初めてだろう。
大阪社会部時代は「ナベちゃん」の愛称で親しまれ、「特ダネより丁寧に取材を重ねるタイプ」(朝日OB)だったという。
主導権は経済部へ?渡辺社長は今後、(1)読者との車座集会の実施、(2)言論の「広場」機能の強化、(3)誤報の防止と訂正報道の抜本的改革、(4)健全な批判精神の堅持、(5)調査報道の強化──に取り組むと語った。どれも至極まっとうだが、目新しさはない。自ら言及した「一連の問題の背後にある課題」とは何なのか、会見で具体的な説明はなかった。
安倍晋三政権に批判的な論調をもって朝日を「売国」「国賊」などとバッシングするのは、メディアが自ら言論の自由を放棄し、天に唾するに等しい。
朝日が改めるべきはむしろ、エリート意識が強く、誤りを認められない、認めたくない体質ではないか。だからこそ「吉田証言」記事削除が、疑問が呈されてから22年後と遅きに失したのであり、そう指摘した池上彰氏の連載コラムの掲載を見送るという、ジャーナリズムとはおおよそ相いれないご都合主義で墓穴を掘ったのだ。
渡辺社長の手腕が今こそ問われるわけだが、東京本社のある中堅記者は「超軽量級社長。社内の“民主化”ここに極まれりだ」と吐き捨てる。東京エリート組の社内闘争は今なお活発で、今回の役員人事では13人の取締役のうち、政治部出身者は西村陽一・東京本社編集局長だけ。経済部出身者は4人もいる。ここ最近は秋山耿太郎元社長、木村伊量前社長と政治部出身者が2代続けて社長を務めたが、経済部が主導権を奪還したといえる。「本人も予期していなかったはず」(朝日関係者)の渡辺氏が社長の座に就いたが「悪い情報が耳に入らず、かいらいに終わるかもしれない」(同)と懸念する声は、すでに出ている。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 岡田 悟)