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むきだしのつめ

豪ロウィー研究所国際安全保障プログラム主任のロリー・メドカーフが、6月3日付National Interest誌ウェブサイト掲載の論説で、中国は武力を背景とした独善的な対外姿勢を打ち出すことによって、アジア・太平洋諸国のなかで孤立を深めつつある、と述べています。

 すなわち、中国が東シナ海、南シナ海において、米、日、フィリピン、ベトナムなどに対し、力を背景に威圧的姿勢をとれば、それは結果的に、中国の利益に適うより、中国の利益を害するものとなろう。中国の現在の対外姿勢のために、フィリピンはもとより、マレーシア、インドネシア、シンガポールなども米国海軍との協力関係を強めたいと考えつつある。

 ベトナムはフィリピンにならって、国際司法裁判所に提訴することも視野に入れているようであり、そうなれば、中国の独善的な領有権主張が世界により明確に知られるようになろう。

 中国とロシアは「新しい連繋」と称し、エネルギー、武器売却、権威主義的態度で同一の姿勢を取り始めた。これを「中露枢軸」と呼ぶ人もいるが、それを誇張しすぎることは両国のプロパガンダを助長するだけである。少なくとも、両国は便宜上の結婚に共通の利益を見出しているだけである。

 ロシアは中国の弟分になることは望んでいないし、日本にもガスを売却したいし、ベトナム、インドには先進的な武器を売りたがっている。両者の関係は、互いに相手側を長期的には不安感をもって見ているという関係に変わりはないだろう。

 5月の上海でのアジア信頼醸成措置会議(CICA)において、習近平は「アジア安保構想」なるものを打ち出し、アジアの問題はアジアの国々が解決するとの考え方を表明した。しかし、このような構想の根拠は薄弱と言わねばならない。CICAの会議なるものにはアジアのメンバーとして、エジプト、イラク、イランなどが入っているが、日本、フィリピン、インドネシア、シンガポールなどは入っていない。ロシアは入っているが、米国は入っていない。

 アジアの安全保障の問題を議論するのに、これまで長年にわたって前進してきた、東アジアサミット、ASEAN地域フォーラム、拡大ASEAN国防相会議のような機構を無視することは出来ない。

 最近のシリアとウクライナのケースは、米国が世界のリーダーとしてのパワーを持っているかどうかに疑いを抱かしめた。しかし、シンガポールのシャングリラ会議でのヘーゲル国防長官の発言は、それを埋め合わせるだけの中身を持っていたし、また、安倍総理のスピーチは多くの国々に歓迎されるものであった。そのため、中国の代表は日米に対し強硬な反撥を示したのであろう、と述べています。

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 5月末から6月初めにかけて開かれた、シンガポールのシャングリラ会議において、中国代表・王冠中副総参謀長は「南シナ海の島々は2000年以上前に中国が発見し、管轄してきたものである」と発言したと伝えられています。中国の主張が、このように、一方的な「中華思想的」な主張であるかぎり、中国と周辺各国との関係は、今後とも冷却ないし悪化せざるを得ないでしょう。

 習近平の対外姿勢はCICAでの「アジア安保構想」によく表わされていますが、「アジアの問題はアジア人によって解決されねばならない」との主張は、つきつめれば、アジア太平洋での米国の役割を排除し、中国がその中心になるとの覇権主義の表明そのものと解釈されてもやむを得ないでしょう。かつて鄧小平が「韜光養晦」(能ある鷹は爪を隠せ)をモットーとせよ、と戒めた時代とは様子が一変しています。あるいは、「爪を隠す」時期が過ぎた、と中国指導部が判断しているということかもしれません。

 南シナ海の領有権問題については、フィリピン、ベトナムなどが提訴したか、提訴を検討している国際司法裁判所での裁定、さらに、ASEANと中国の間の行動規範の策定など、地道ではありますが、国際社会にアピールできる、法の支配という方法を追求する以外なさそうです。


by akikomichi | 2014-07-19 00:03 | 日記 | Comments(0)