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ドーハ・ラウンドの交渉の暴走について

http://www.nochuri.co.jp/report/pdf/nri1109re1.pdf より抜粋

重要な品目に高い関税率
を適用することを認めるなどの,柔軟な扱
いが行われたのである。
そして , 新ラウンドについて定めた
WTO農業協定第20条においても,「根本的
改革をもたらすように助成および保護を実
質的かつ漸進的に削減する」という長期目
標を認識しつつ,次に開始する交渉には次
のことを考慮するとしている。
① 削減約束の実施によってその時点ま
でに得られた経験
② 削減約束が世界の農業貿易に及ぼす
影響
③ 非貿易的関心事項,開発途上加盟国
に対する特別のかつ異なる待遇,公正
で市場指向型の農業貿易体制を確立す
るという目標その他前文に規定する目
標および関心事項
④ これらの長期目標を達成するために
さらにいかなる約束が必要であるか
これらすべてのことを踏まえたうえで,
各国は合意に至ったのだということを忘れ
てはならない。
しかし,ドーハ・ラウンドは開始直後か
ら,米国・ケアンズ諸国の猛烈な自由化要
求を突きつける舞台となった。その勢いは
現在に至るまで弱まることなく続いている
が,これは,交渉の暴走と呼ぶべきであ
る。
さらに,交渉においてわが国が置かれて
きた立場を振り返ると,この交渉ははたし
て公正な土俵の上で行われてきたのかとい
う疑問を禁じえない。
わが国はウルグアイ・ラウンドの結果,
特例措置適用により開始は遅れたものの米
の関税化を行い,関税削減の柔軟性確保を
最大の目標として交渉に臨んだ 。 一方 ,
EUは域内農業保護の手法を削減義務がな
いと規定される直接支払いに軸足を移し,
米国も手厚い国内保護を積み上げ,必要に
応じWTOのルールを変えて「新青の政策」
を認めさせる等によって,自らの安全地帯
を確保しながら交渉を進めている。ウルグ
アイ・ラウンド以降のルールは,EUや米
国の都合に合わせて作られ,変えられてき
た面があることは否めない。
相撲の試合だと言われて土俵に上ったと
ころ,いきなりボクシングで攻め立てられ
ているようなものではないか。交渉開始時
の理念に立ち返って,このような公正でな
い交渉の問題点を指摘し,交渉の暴走に歯
止めをかけなければならない。
(2) 食料安全保障・環境保護との調和
貿易自由化が極端に進められると,一方
では,それに伴うさまざまな弊害が現れて
くる。近年の世界的な穀物価格の高騰は,
わが国の国民に,将来の食料確保への懸念
を募らせたし,現に世界では,自由な農産
物貿易が拡大するなかでの深刻な飢餓人口
の増加がみられる。また,自由貿易だけを
優先させると,その結果,環境に対する負
荷が高い経済を生み出す懸念もある。
このようなことを背景に,WTO農業協
定は前文において,「改革計画の下におけ
る約束が,食糧安全保障,環境保護の必要
その他の非貿易的関心事項に配慮しつ
つ・・行われるべき」としているのである。
またWTO協定の一部をなすガット協定第
20条は,「この協定の規定は,締約国が次
のいずれかの措置を採用することまたは実
施することを妨げるものと解してはならな
い」として,「(b)人,動物または植物の
生命または健康の保護のために必要な措
置」「(g)有限天然資源の保存に関する措
置」を掲げている。
重要なことは,WTO協定は他の協定等
の上に立つ上位協定ではないということで
ある 。 ドーハ閣僚宣言は前文において ,
「我々は,開放的で,差別的でない多角的
貿易体制を支え維持するという目的と,環
境保護と持続可能な開発の促進のための行
動は,相互に支え合うことが可能であり,
また,相互に支え合うものでなければなら
ない」としているのも,このようなWTO
協定の位置づけを反映したものである 。
WTO協定は,貿易以外の問題も決定でき
るものではなく,食料,生命の安全,環境
などの問題との調和を図らなければならな
い。
従来,ガット20条については厳格な解釈
が行われてきたのであるが,すでに環境保
護措置については,WTOにおいて積極的
に取り組む考えが出てきている。
WTOでは設立と同時に「貿易と環境委
員会」(CTE)が設置され貿易措置と環境
措置の関係を扱ってきているが,さらにド
ーハ閣僚宣言では,以下の交渉を行うこと
とされた。
① WTO協定と多国間環境協定との関

② 多国間環境協定事務局とWTO委員
会の間の定期的な情報交換等
③ 環境関連物品・サービスの関税・非
関税障壁の削減・撤廃
このように環境保護と貿易の調和につい
ては徐々に取組みが具体化してきている
が,食料安全保障の問題は,国民の生命維
持に関わる食料主権の問題であり,環境保
護と同等あるいはそれ以上に重視されなけ
ればならない問題である。08年12月,国連
人権理事会のドシュッテル食料問題担当特
別報告者は,本(09)年3月に同理事会に
提出を予定している報告書の中間報告を公
表した。
(注3)
「ドーハは新たな食料危機を防止
できない」とするこの報告は,農産物貿易
の自由化が食料に対する権利を侵害するこ
とを指摘して,農産物の貿易制度が食料に
対する権利などの人権と融和的になるため
に,①各国は食料への権利と両立しない
WTO合意は行わず食料権実現の立場を明
確にすること,特に開発途上国にとってセ
ーフガード措置は重要であること,③各国
は,食料安全保障を追求するうえでは貿易
への過度な依存を避けること,④農産物貿
易市場における多国籍企業の力を制御する
こと,を勧めている。
このように,食料安全保障および環境保
護と貿易の調和が図られるよう,WTO交
渉の枠組みの見直しが必要である。
(注3)国連人権理事会(2008)


農林金融2009・3 29 - 139
by akikomichi | 2011-10-20 11:26 | Comments(0)