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『子犬』

その娘には子犬がよく似合う。
子犬が娘そのもののようだった。
黒いトイプードルとその娘は本当によく似ていたのだ。
もっとも、犬は吠えずに少し震えながら、娘のヌイグルミのようにかろやかに足をぶらつかせ、駆け出すこともできず、ただ娘の腕の中で、逃げ出せずに、空をかき続けていたのだが。

その娘は大きな目を、瞬きもせずに、こちらを見ていた。
母親がその娘を探しているのを知っていた。
迷子になった子犬を探すように尋ねられたのだ。

うちの娘、知りませんか。
いつのまにか、外に出ていたんです。
犬を連れて。

その娘は、犬の散歩がしたかったのだろうか、それとも、自分が外に出たかったのだろうか。
まだ、学校に行き始めたばかりの小さな女の子であった。

その娘に、犬の名前を聞いてみた。
どこかできいたことのある名前だった。

その娘は、ふるえることもなく、犬の匂いをまきちらしながら、まばたきもせずに、じゃあね。と、めをあわせかえっていった。
いきているにおい。これがいきているけもののにおいだと無言のまま。振り向きもせずかえっていった。

娘の行く先をかぎつけて母親がやってきた。
白い化粧の匂いがすべてをかきけした。




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by akikomichi | 2015-03-23 22:43 | 詩小説 | Comments(0)

誰も乗っていない自転車

誰も乗っていない自転車をひいてしまった
バックしていたときだった
あれからバンパーは
段差のあるたびに悲鳴を上げる
いまもなく自転車の亡霊

もう花は手向けられない
あそこをとおるたび
息を止めていた
通り過ぎるまでの仮死四十五秒
花はもうなくなってしまったのに

くろぐろとしたかみのいろは
そめあげられたあとのくろ
しろいところはみあたらなくて
ただしろいぬりこめられたかべで
はだこきゅうができないくろねこのきしみがある

ゆうぐれどきのさんげきに
いきもできない
われわれはあかいかさをささないまま
自転車をこぐ
あのおだやかなめをさがしさがして
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by akikomichi | 2015-03-02 01:19 | 詩小説 | Comments(0)

温度計

いつからだろう。
温度計の赤いすいぎんが離れ離れになっていた。

うかつであった。
横を向いた眼差しが温度計の目盛りを凝視するあの目線でしか、赤い線を見ていなかった。

毛根から跳ね上がる赤毛のような水銀は点々とした切れ毛になっていたのだ。

これでは、温度が正確に測れない。

いままでこんなことはなかった。
堆肥の変化を観察し続けてきたが、はじめての事だった。

温度計を熱湯にとうにゅうせよ。
さすれば、もういちど、つながることができよう。

神のお告げのようにひとはいった。
すいぎんはひとつになる。はずであった。

なべで煮立てて百度になるまえに。
温度計はてからこぼれ、ふたつにわれた。

温度は失われた。
もうはかりしれない。

たいひせよ。
だんぼーるのなかの微生物よ、たいひせよ。

ただつちにねむりて、
あたたかきはるをまたれよ。









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by akikomichi | 2015-02-14 01:00 | 詩小説 | Comments(0)

『笑い』

人がいるかいないかを確かめるように、死ぬか死なないかの瀬戸際に、人々は笑うらしい。

どうしようもなく、からからと笑うのだ。

笑うことで、人を遠ざける。

邪気からか、人からか、緊張からか。

あるいは、それらすべてからか。

耐えられず、その場を離れるものもいる。

生きたままか、死んでからか。

命とは、勝手に拘束され、勝手に空爆され、勝手に焼かれ、勝手に刺され、勝手に切られるものであったと、気づいたときに、人は逃げる。

笑いにか、その場からかは、個人差がある。

一方で、クソコラでいじり倒されたマザーアースは、カラオケで世界平和を歌っていた。

他方で、ピラミットの下敷きになりたくないので逃げた人もいた。

あるご婦人はなくなった。

戦場でもないのに。

ピラミットの下敷きになって。

いつも忙しく、人の世話をしていたご婦人は、若くしてなくなった。

人を助けようとしているものが、ボロボロになって死んでいく。

余計なことをしたということで、袋叩きにあって。

世の中は、余計なことばかりである。

やらなくていいものを、やりたがるのが、ひとである。

やらなくてもいいことをやる。

では、やらなくてはならないこととはなんであろうか。

たべること、ねること、それらを満たすくらいの安全を満たすこと。であろうか。

すくなくとも、後は自由であったはずだ。

安全であるために、不自由になるのが、人間であった。

窮屈でしかたがない。といいながら、どんどん、新しい不自由を作っていくのだ。

檻の中、焼かれたのは我々人間の何かだ。

不自由の中、身動き取れないまま、見せしめのため、じわじわ焼かれていく、ぶつ切りの動画の中の何かだ。

作られた動画の中に閉じ込められたのは、己の見えない笑いであった。
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by akikomichi | 2015-02-04 12:56 | 詩小説 | Comments(0)

『こんぽすと』

生きたままダンボールの暗闇とともに送られてきた
おがくずにうもれた蝦は
正月の朝
喰われました
髭と尾をちょんぎられても
おがくずを箒のようにしゅっしゅと這わいては暴れた蝦ですが
背中の曲がった養老の赤と白の縞々のちゃんちゃんこを着たじさまばさまのように
おとなしく無口になるのでした
蝦は身を喰われた後は殻となり
この軽やかな棺桶のようなダンボールで
コンポストになるのでした
微生物に分解されながら
殻はダンボールの棺桶の中に敷き詰められた堆肥になるのでした

   



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by akikomichi | 2015-01-02 20:18 | 詩小説 | Comments(0)

『羊の時』

羊の頭のスープを飲んだことがある。

大きな人一人が膝を抱えて入れるくらいの煮込み用鍋は濁って泡が地獄のように湧き上がっていた。

シシカバブを食べようと、ふらりと立ち寄った店での事だった。

シシカバブを頼み、バターライスの上に、串刺しで焼かれていただろう羊肉がもっさりとあぶらをぎらぎらさせてのっかってでてきた。

紫がかった生の玉葱をかじり、油にまみれたシシカバブにライムを絞り、フォークとスプーンでガシガシと食べだした。


その時、店のものがおもむろに、窓辺にある湯気の立ち上がる大鍋の中から羊の頭を持ち上げたのだ。

夕暮の車の行き交う排ガスも遮断された窓の向こうの景色を背後に、その羊の頭は目のない暗闇を持ち上げられ、こちらをじっと見ているようだった。


今、お前の食っているものが、私の肢体だ。


と、その目のない暗闇が語っているようだった。

私は、どうしようもない暗闇を余すことなく喰らうように、そのスープを頼んだ。

湯気の立ち上るコンソメ色のスープに白いふわふわしたものが浮かんでいた。

髭の生えた店の者が、ニヤリと笑った。

羊の白い脳はおいしいですよ。

とスープに特別に入れてくれたのだった。


夕暮れ時、羊の脳内記憶が、一口づつ、口述筆記をするように、私の中に溶けていった。





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by akikomichi | 2014-12-31 20:40 | 詩小説 | Comments(0)

『選挙』

選挙とは何であろうか。
選ぶものと選ばれるものがいる。
投票する。
あるものは、名前を売るために高いカネを払い選挙に出る。
あるものは、否を唱えるために出る。
またあるものは、選挙の投票ができないと言って道を占拠する。
やっと次世代のために投票できる政党ができたのに、投票前に次世代という名を告知されなかったり、次世代のための投票用紙が共産党に加算されていたりする。
一時的にそこにいなかったものが大勢押しかけ住民票を移して勝った勝った沖縄の民意だとか言うものがいる。
選挙・活動資金集めのために、市役所で赤旗新聞を個人的に購読させられたり、子育て世代のリズム体操の講座にダイジェスト版赤旗を購読させられたりする。
自民党と公明党と民主党と共産党のために投票して下さり有り難うなどという、予め決められたプロレスのようなことをし、七百億もの金を無駄に使うものがいる。
その後の増税を見越してのなれ合い選挙。
パチンコ・カジノを推進し、日本を貶めようとするものがいる。
そういう出来レースを選挙とは言わない。
形だけの選ぶ儀式である。



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by akikomichi | 2014-12-15 14:51 | 詩小説 | Comments(0)

『からすがえすも』

少年は友達と宿題をしていた。

何度も何度も繰り返すドリルの宿題。

終わったと思ったら、もう一度、最初からやり直すことになっている。


最低三度はやり直してください。


と、先生から言われている。今日で三度目だ。

これが終わりかといえば、そうでもない。

時間が有り余っているものは、何度でもやり直していいことになっている。

少年には、余り時間がなかった。

それでも、なんとか、三度目までやったのだ。

友達と一緒に。

答えは見ていない。

答えは自分の中にあるだけだった。

何度やっても、これしか見つからないのだ。これが答えなのだろう。

三度目の最後の問題を解いていた。

三角形の角度の問題。

三角形の内角の和は。180度。
∠100度と∠30度を足して∠130度。
だから、180度からそれを引くと。
答えは∠50度。

とノートに答えを書くか書かないかの時、窓の外で、黒い風かゴムのような塊か地震が真横からきたような、何かが体当たりしたような、「ごっ」という音がした。

透明なガラスには赤いトマトか熟れた柿があたってびしゅっと飛び散った波紋のようなものが残っていた。

何かが当たったのは間違いなかった。

カラスだった。

きらきらしたガラス玉を集めるというカラスがキラキラしていたのかどうかは分からないが、ガラスに突っ込んできたのだ。

薄ら寒い灰色がかった空から、丁度、50度くらいの角度で、カラスダマになったように。

少年めがけて飛んできたのだった。

少年とカラスを遮るのは、一枚のガラスだけだった。

カラスは、鮮血を三滴残し、元きた方向へよろよろと帰っていった。


もしも、あのカラスが今度来たら、どちらか、いや、角度によっては、すべてが壊れるかもしれない。


少年には、ガラス一枚と角度の問題が残されたままだった。



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by akikomichi | 2014-12-07 21:29 | 詩小説 | Comments(0)

『幻の国』三

「イスラーム革命とイスラーム国家」

イスラーム革命の前後を見た。
そこにいたから。
幼い頃、革命前後、二度に分けて、父親の仕事の関係でイランに住んでいたのだ。
シャーの時代。
女達は一部のものを除いて何も被っていなかった。
車を運転していた。
高いヒールを履いて、そこいらを歩いていた。
革命後、再度イランに行くことになって、シャーの奥方の靴が何千個も置き去りにされたということを、その頃、見物ができるようになっていたシャーの使っていた別荘か屋敷かで聞いた。
誰も履かなくなった靴は、革臭い儚い被りもののように、何千億、兆もの油火にあぶられたあとの灰を被った、灰かぶり姫の忘れ物のように、そこにとり残された。

もぬけの殻になった建物。
火にかけられていないだけで、Alexander大王に焼かれ柱と土台だけが残ったペルセポリスのように、棲むものは人っ子一人いない中、土漠を見渡すように、時は流れているようで、止まっているのだった。

かつてあったペルシャという「幻の国」。

かつてあったイランという「幻の国」。

その幻の国の上にある、中にある、外にある、今そこにある、イランイスラーム帝国。

「国」とは、幻を食い尽くした後の祭りの実体なのだろうか。


この「イランイスラーム帝国」とは一線を画する「イスラーム国」とは、一体、何なのであろうか。

革命で起こったのではなく、外人部隊のように散らばっていたのか、外部からかき集められたのか知らないものの、戦うための集団、あるいは概念なのであろうか。

実体はないかもしれない「幻の国」。

覆面をかぶったままの戦いの舞台こそが「国」という概念なのであろうか。







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by akikomichi | 2014-12-02 11:35 | 詩小説 | Comments(0)

『幻の国』ニ

「幻の国」


今、イスラム国において、憎しみの対象が、爆撃を行ったと思われる国々の人やその関係国の人の首を跳ねる映像が、流されているというが、憎しみの前に、首が飛ぶというのは、かつての戦国時代の日本では当たり前のことであった。

今は、何事もなかったように、集団的自衛権などありえない、などと良心的自衛権的なたわけたことを言うものがいるが、ほんの何百年か前には、いや何万年前から自衛と戦争は当然のごとく行われていたのである。

ありえないことなど、なにもないのである。

この世には。

ありえないことが、当然のように行われてきたのである。


ありえないイスラム国。という人もいる。

どこにもないイスラム国。ともいえるが、そもそもイスラームとは設立当初から国としての機能を備えていたと言われているから、「イスラム」と名がついただけでも、「国」という幻は立ち上がってくるものなのかもしれない。


ありえない満州国。という人もいる。

どこにもない満州国。ともいえるが、満鉄もあり、お金も浴びるほどすられたのであり、映画会社まであり、まぜこぜの言語まであり、人種のるつぼでもあり、「国」という幻はたしかにそこにあったのである。




















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by akikomichi | 2014-12-01 23:07 | 詩小説 | Comments(0)