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『蛍日記』

5月31日 日曜日 晴れ。
9時。


昨日の蛍が同じ所で光っていた。
踏まれていなかった。
他の蛍が飛び出すことを待っていた。
ここにいるとわかっているのに。
土からはいだしてこないとわからないのだ。
そこにいることも。

去年からよく蛍を見に来られる方がおっしゃっていた。

今年は水の音がしない気がする。
水が流れていないと蛍はでてこないんじゃないと。

蛍は成虫になると水しか飲まないという。
水の流れのあるところを好むのはゲンジで、田んぼなどのためてある水でも生息できるのがヘイケだという。

今ここにいるゲンジは辛うじて、ほそぼそと流れている水の音にひかれて、柔らかい光を放って生きているのだろうか。
蛍の水力発電。
再生可能?
番になり、百匹ほど産んだ卵は小さく光るという。
そのこらの5%が生き残るという。
再生。
再び生まれるこの命。


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by akikomichi | 2015-05-31 22:11 | 詩小説 | Comments(0)

『蛍日記』

5月30日土曜日 小雨のちくもり。
21時。

布団に寝転び、めまいがした気がした。
ほんのすこしの地震の揺れを畳の上で感じていた。

めまいではないことを、地震情報で確認してから、ふらりと家を出た。
蛍に会いにいくために。

一匹の蛍が苗を植えたばかりの田んぼの横の土手にいた。
ほの青くほうほうと光っていた。

ゲンジの雌であった。
雌はあまり飛び回らない。

草場でのんびりと光っている。
ここにいると光っている。

雄は雌をさがすように、飛び回る。
そこを目指して、飛び回る。

しかし、今日は、雌だけが、光り続ける。
ここにいると光っている。

土地の方とよく出会う。
声がしたから蛍を見にやって来た。と笑う。

蛍のお母さんと言われる上司と蛍談義をしていたものだから。
囂しい声が人に届いていたのだろう。

昔は、この辺りには、たくさん蛍がいたんよ。
麦で編んだ籠にいれて遊んだんよ。ほんの80年前のことやけど。

麦が育つ時に、蛍も飛ぶ。
その時にあったものが形作られ、使い込まれて、後に繋がっていくのだ。


蛍のうたを思い出していた。

ほたるこい やまみちこい
あんどのひかりをちょいとみてこい

ほたるこい やまみちこい
あんどのひかりをちょいとみてこい


麦の穂の間をちろちろと光る蛍が漂うのをたよりに
山道を歩いているような

ほんとうはあぜ道にもならない
ちょっとした草道ではあるが

話の間、しばらく光らなかった蛍の雌が、横で静かに光りだした。




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by akikomichi | 2015-05-30 23:06 | 詩小説 | Comments(0)

『蛍日記』

5月29日金曜日、晴れ。
8時半。

橋の上から、水の上を漂う一匹の蛍を見つける。

蛍は水鏡に映しだされ、水と空間に漂う二匹の蛍となる。

今日、弥生時代のものと思われる多鈕鏡の紐を通す穴付近の石型が出土したものを見てきた。

あの石に、火でとろとろと熱くなった青銅が、坩堝から流し込まれ、磨かれ鑑となり、姿形を映し出すようになるのだ。

蛍は柔らかい水鏡に映しだされ、青白い一本の糸のようにつうと、見えない穴を通っていった。


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by akikomichi | 2015-05-29 23:57 | 詩小説 | Comments(0)

『蛍日記』

5月26日・27日 晴れ

11時過ぎから深夜。

蛍も人もいない。

自転車と収集車が通り過ぎていった。

石畳に吸い付くように、可燃物を食べるように。

しかし、蛍は無言を貫く。

昨日より背を伸ばし月腹が肥えたのは気のせいではない。

ふと、亡くなった人を思い出す。

ここをいつも通り抜けた人々。

よお。何してる。

と、もう言わない。

白く濁った老眼ももうない。

帰り際、月に蚊帳をつったような膜がかかっていた。



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by akikomichi | 2015-05-27 00:21 | 詩小説 | Comments(0)

『蛍日記』

5月25日、晴れ。遠くで地震あり。


11:00。
遅すぎたのか。
蛍、翔ばず。
蛙の声だけが響く。
あんまり光るから、蛙がこちらの方へ寄ってきている。
喰われたか。

去年、いや一昨年は猫が水を飲みにやってきていたから。
猫じゃらしにされて、挙句の果て、猫に飲みこまれたか。
あるいは、暑さにやられたか。
と、いいながら。
蛍をずうっと待っていた。

人の話し声も聞こえてきた。
蛍は光ろうともしない。
夜に飲み込まれたか。

虫の知らせよりも、閉店の知らせ。
蛍の光が近くのスーパーで流れはじめた。
シャッターはおろされた。
もう、誰もが帰る時間のようだが。

人の話し声だけが、遠くの方で、聞こえている。





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by akikomichi | 2015-05-25 23:32 | 詩小説 | Comments(0)

『蛍日記』

5月24日、日曜日。晴れ。

 9:40、二匹。 

 今日も、二匹、蛍が飛んだ。

 昼の暑い熱を遮る黒い網目の下。

 ここにいるよ。と、点滅する。

 あと少しで、真っ暗な夜に溶けて逝く。

 黄緑の命の時限爆弾。

 一度に、二つの、色のついた魂が呼び合うのだ。

 どちらからも寄り添わず。

 遠くのほうで、呼び合うのだ。

 あと少し。

 あと少しなのだからと。



 9:55。一匹。

 蛍は、黒い網を通り抜け、空を漂う。

 オレンジの外灯をめざして。

 うっかり巨大な仲間と思って。

 人気のない車道を漂う。

 そちらにいっては駄目だ。

 何もない。

 ヘッドライトに轢かれるだけだ。

 ひとしきり漂ようと、蛍は犬枇杷にお隠れになった。




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by akikomichi | 2015-05-24 22:20 | 詩小説 | Comments(0)

『ナイフの使いよう』

子どもがまだ言葉を喋れない時、変なナイフの絵本を読んだことがあった。

子どもにせがまれたのではなく、ともだちが面白いからと教えてくれたので読んだのだった。

ナイフがぐにゃりと曲がったり、溶けたりするのだが、なにが面白いのかがその時はちっとも分からなかった。

既成概念を超えたところが面白いのだと言われたが、既成概念を取り込もうとしている子どもにもピンときていなかった。
ように見えた。


しかし、今朝、ようやく、わかった気がした。

よく知らない誰かが背後からやってきて、私をさしたのだった。

いざというときの為に、ナイフを使うという格闘技か武道か知らないものをしているような、手慣れたナイフの使い方で、私の背中をさしたのだ。

目に見えない悪意というものはあるのだ。

人の血肉をえぐるまで憎しみを持つということは、おそらく、そういうことなのだろうが。

私には、よくわからない憎しみなのだった。

いざというときの為に。

面白い仮面を被ったものが脱ぎ捨てた、どす黒い川に流された白々しい一皮被った仮面。




たしかに、そのナイフは、私の中で、ぐにゃりと曲がり、血肉に融けだしたようだった。

既成概念を越えるということは、身を持って知るということであった。


今度はその白々しい面白い仮面を脱いだ、本当の、素顔の憎しみのようなものが見たいものだ。

私は振り返りながら、心の底から、そう思った。


そこに、知らない男が、ナイフを持ってたっていた。



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by akikomichi | 2015-05-09 22:37 | 詩小説 | Comments(0)

『こども』

おさないこどもはそんなことをしない。
というものはおとながこどもにおしつけていること。
こどもはむじゃきだから。
おとなのひょうじょうをおしはかる。
こどもはなんでもしりたがる。
とびらをあけてでんきけいとうのぼたんがあることにきづく。
こどもはもっとしりたがる。
たんけんしたいといいつのる。
こどもはだめといわれるとしてみたくなる。
はいかんのればーだってさわるだろうが。
こどものありのままをみることがこどもではなくなるひとつのてだて。
ありのままをみないでべつのだれかのせいになるほうがいいおとなもいるらしいが。
こどもはおとなをみている。
ほんとうのことをいえるかどうか。
こどもとむきあうおとなかどうか。
すでにわかくはないわれわれおとなとみなされているものはためされているのだ。






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by akikomichi | 2015-03-24 09:29 | 詩小説 | Comments(0)

『子犬』

その娘には子犬がよく似合う。
子犬が娘そのもののようだった。
黒いトイプードルとその娘は本当によく似ていたのだ。
もっとも、犬は吠えずに少し震えながら、娘のヌイグルミのようにかろやかに足をぶらつかせ、駆け出すこともできず、ただ娘の腕の中で、逃げ出せずに、空をかき続けていたのだが。

その娘は大きな目を、瞬きもせずに、こちらを見ていた。
母親がその娘を探しているのを知っていた。
迷子になった子犬を探すように尋ねられたのだ。

うちの娘、知りませんか。
いつのまにか、外に出ていたんです。
犬を連れて。

その娘は、犬の散歩がしたかったのだろうか、それとも、自分が外に出たかったのだろうか。
まだ、学校に行き始めたばかりの小さな女の子であった。

その娘に、犬の名前を聞いてみた。
どこかできいたことのある名前だった。

その娘は、ふるえることもなく、犬の匂いをまきちらしながら、まばたきもせずに、じゃあね。と、めをあわせかえっていった。
いきているにおい。これがいきているけもののにおいだと無言のまま。振り向きもせずかえっていった。

娘の行く先をかぎつけて母親がやってきた。
白い化粧の匂いがすべてをかきけした。




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by akikomichi | 2015-03-23 22:43 | 詩小説 | Comments(0)

誰も乗っていない自転車

誰も乗っていない自転車をひいてしまった
バックしていたときだった
あれからバンパーは
段差のあるたびに悲鳴を上げる
いまもなく自転車の亡霊

もう花は手向けられない
あそこをとおるたび
息を止めていた
通り過ぎるまでの仮死四十五秒
花はもうなくなってしまったのに

くろぐろとしたかみのいろは
そめあげられたあとのくろ
しろいところはみあたらなくて
ただしろいぬりこめられたかべで
はだこきゅうができないくろねこのきしみがある

ゆうぐれどきのさんげきに
いきもできない
われわれはあかいかさをささないまま
自転車をこぐ
あのおだやかなめをさがしさがして
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by akikomichi | 2015-03-02 01:19 | 詩小説 | Comments(0)