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四十九日

四十九日が近くなり、盆でもあり、亡くなった先輩のお宅に皆さんと伺う。

奥様と子供さんはいつも通りの日々を過ごしておられるようであったが、大きな存在をなくしたことは、ご家族にとっても、私たちにとっても、未だに受け止めきれないもののように思われた。

写真の先輩は微笑んでおられるが、どこか上の方、遠くの方を見ているようで、もう、お話しすることも、教えていただくこともできない哀しみのようなものを置いて行かれたことを思った。

まだ、そこにおられるような、そのような気になることも、しばしばであった。

身が引き締まるような、何事もおろそかにできない、見えないものを感じるような。

犬の梅子ちゃんが、見知らぬ人々が来たので、びっくりしたのか、よく吠えていた。

梅子ちゃんの鳴き声が、いつまでも、帰り道にこだましていた。

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by akikomichi | 2017-08-13 21:11 | 詩小説 | Comments(0)

「月蝕」

ハサミを入れる皮の入れ物の修理を個人でカバン作りをしている方に頼んでいた。

汗で皮が溶け出したようにしてできた穴が鋲よりも大きくなった。

地球を飲み込んだ影のように、ぽっかりとした見えない闇を作り出していた。

月を蝕うような闇が底なしの穴を作っていくような夜に、人工の小さな太陽の光を溜め込んだようなコンビニエンスストアで待ち合わせをしていた。

彼女はすでに来ていて、雑誌のところに立っていた。

私は、ハサミを入れる皮の入れ物の二つの穴を埋めた、新しい皮に縁取られた白いステッチが手縫いであることを教えて貰った。

柔らかい白い線に縁取られた二つの鋲は、銀色に光っていた。

彼女が、一つだけ打ち込む時に凹んだといった。

ハサミがあまり良く切れず、新しいハサミを手に入れたばかりだったので、ようやく、おさまるところを直してもらったのだから、それくらいのことはよしとした。

彼女の作る手作りの鞄も秋頃にはできるという。

一つ一つ形を作っていくことの喜びを知っている人は幸いである。

私は、茅葺の屋根を見るたびに一つ一つの茅の収まりどころを思った。

重なっていく茅の重みと竹の押さえ。

一つ一つの茅になったように、見続ける毎日を過ごしているうちに。

いつの間にか、私は茅葺の屋根になっていくような、茅葺そのものになっていくような気になってくる。

雨にさらされ、強い日差しにさされ、風を受けて、そこにいるのだ。

などと思いながら、明るすぎるコンビニを出て、真っ暗な山道を車で駆け登っていくと、異様に黄色く光る月が出ていた。

もうすぐだった。

夜中を過ぎてから、月蝕が始まるということを思い出していた。

地球の影と月が重なる時。

私たちは、それぞれ闇を孕んで向き合うように、月が闇に喰われてしまうのを恐れもせずに、そのまま、そこにいた。




















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by akikomichi | 2017-08-08 02:10 | 詩小説 | Comments(0)

「稲の花」



稲も花が咲くときがあるのだという
稲の花は白いという
もう少しで花が咲くという
花が咲くとき雨風はない方がいいという
一つ一つの米に花が咲くとき
愛し合うといい
小さな実がつくとき
白い実を一緒に食べればいい


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by akikomichi | 2017-08-01 19:50 | 詩小説 | Comments(0)

「今年の蛍」


久しぶりに散歩をした。
暗い夜道を歩いていると星がくっきりと見えてきた。
山の星は近くに見える。
しばらく歩いていると道端に
今年初めての蛍を見た。
この時期に見れるとは思ってもいなかった。
光っては消えていくほのかな明かりにつられて立ち止まった。
これからどうやって生きていけばいいのだろうか。
心の中で蛍に尋ねてみたくなった。
光っては消えていくほのかな明かりは
何も言わずにただそこにいた。



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by akikomichi | 2017-07-31 22:42 | 詩小説 | Comments(0)

「最後の試合に」

高校生最後の剣道の試合に臨んだ倅であった

体が心を通り越して動くような

気持ちが重心になっているような

それでも体の動きは自由の中にあった

一人抜き

二人抜き

切り込んでいくその体は自由そのものであった

凄まじい風を作るような自由

生の喜びの中 動き回るような

あそこまで自由に動けるようになった倅の凄まじい努力を思うと

母は涙が自ずと出てきて止まらず

いい試合であった

面白い友と出会えて

良き師に出会えて

幸せな時をもらって

あなたが自分が生まれてきてよかったと思える時を

あなた自身が自分の力で作っていることに

心から感謝する




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by akikomichi | 2017-07-28 17:34 | 詩小説 | Comments(0)

「そこが抜ける」

そこが抜けたのは、小走りで走った日のこと。

古い板に自分の足を飲み込まれた。

足が入った先には。

刻刻の刃の欠けた鋸のような真っ暗な穴が口を開いていた。

急いではことを仕損じる。

今日、その穴をふさいでいただいた。

焦らぬように、ゆっくりといこうという戒めのような新しいそこ。

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by akikomichi | 2017-07-25 20:51 | 詩小説 | Comments(0)

「蛇の抜け殻」

蛇が茅葺屋根にいたという
大きな腹をしていたという
ことりがいなくなった
丸呑みにされたのだろう
街中のビルでは三、四階はあろう高い屋根の上に
蛇が息を潜めて生きている
ことりを狙って

蛇の抜け殻があった
死んだわけではないのだ
抜け殻になっただけである
その生身はきっと
どこかで生きながらえている

帰り際
小さな蛇が道を横切っていた
脱皮した蛇ではなく
魂だけの
まだ生まれたてのような
細く小さな体をくねらせて
草薮に消えていった




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by akikomichi | 2017-07-20 01:24 | 詩小説 | Comments(0)

黒い子猫が道を横切った日
白鴉がスクリーンに映し出されて歌っていた
何かの萌しのように
白黒の子ヤギが道端の草を食んでいた
白と黒が混じり合う時
緑の恵みの時を迎えるように
大雨ののちの
嘆きの後の
小さな萌しを見るように
ただ
そこにあった



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by akikomichi | 2017-07-09 18:52 | 詩小説 | Comments(0)

「桜桃の味」を忘れてしまっていた。

アッバス・キアロスタミの映画。

死に場所を探して、死を下すものを探して回る男の話。

はげ山の坂道の途中に穴を掘って、そこに横たわる男。

そこから夜が更けていくのを眺めて、返事をしなかったら、穴に土をかけてくれるものを、朝まで待つために。

その嘆き。は、ひっそりと、生きているように見えながら、その実、死んでいるものを作る剥製屋が土をかけに来るのを待つために。


奥底に寝転がった「桜桃の味」の記憶を呼び起こすために。

現実の、嘆き続ける死よりも、桜桃の味を忘れないように、生きるように。

あの残されてしまった可愛い子に桜桃をあげたのかもしれない。

笹の葉が雨で揺れて、濡れて、滲んでしまった、七夕の短冊に書いた見えない思いのように。

生きて桜桃の味を忘れないように。

あの小さなリボンのよく似合う可愛い子が生き生きと生きるように。

甘い桜桃の味を忘れないように。





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by akikomichi | 2017-07-07 21:21 | 詩小説 | Comments(0)

「蛇の疑問」

昨日のこと。

作業場にて、杉皮の束を作るために軽トラックの置いてあるところから杉皮の置いてある奥の方に歩いて行こうとしている時。

坂道の途中で、蛇が腹を見せて息絶えていた。

はてなまーくのように肢体を曲げて、全身全霊の疑問がとぐろを巻いているように、そこにあった。

はげしい雨が降り出した。

携帯からも、地域の放送からも、警戒警報が鳴り響いた。

子供の頃、父親の仕事の関係で暮らしていた、イランで初めて聞いた、イラクから爆撃機が飛んできた日の警報を思い出していた。

あの日は、蒸し暑かった。

夕方のことであった。

花火のように流れ落ちていく、赤い爆弾を初めて見た日。

人が死ぬことを前提にした、ミサイルの雨が花火のように点々と流れ落ちた日。

私たちは、何をしているのだろうか。

死ぬために生きているのだろうか。

生きるために生きているつもりで、心の奥そこでは、自分が死ぬのを、坂道の途中で、待っているのだろうか。

蛇は全身全霊で、死をもって、その疑問を形にしていた。










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by akikomichi | 2017-07-06 08:37 | 詩小説 | Comments(0)