カテゴリ:詩小説( 244 )

『蛍日記』

6月7日 日曜日 晴れ。
22時。

とりあえず、航空券のチケットを予約しにコンビニに行く。
岐阜にいく予約。
行き帰りだけ保証されたが、みなで眠らず詩を語れたら語り、疲れたら野宿でもしようかな。
詩を堪能しに行くためのチケット。
詩に向き合うためのもの。
いままでのものを確かめること。
通過点ではあるけれども、ひとつの終わりかもしれないこと。

帰りに蛍池による。
ちかちかと蛍が二回、合図のように光った。
そのあとしばらく暗闇が続いた。
田んぼの畦道に頼りなく光る蛍がいた。
いまにも眠りにつくように、ちろちろと光っていた。
みなさん。おやすみなさい。

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by akikomichi | 2015-06-07 23:41 | 詩小説 | Comments(0)

『蛍日記』

6月4日 木曜日 晴れ。
20時。

有志で蛍の飛び交う川を訪れる。
まだ少ないほうだという。
これから徐々に多くなっていくのだと。

木の上をゆるりと飛ぶのはどれもが雄にみえる。
叢に隠れた蛍はどれも雌にみえる。
番でいると夫婦蛍にみえる。

どれもだれのものでもない。
蛍は蛍でそこにいる。

人も疎らに蛍をみている。
人は人でそこにいる。

帰り道は猫峠。
左手に鹿をみつけた。
最初は座っていたので兎かと思った。
立ち上がると子鹿のようだった。

しばらくいくと。
右手に鹿の親子がいた。
はぐれた子鹿を探していたのか。
はじめてこの道で鹿に出会ったのだった。







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by akikomichi | 2015-06-04 23:36 | 詩小説 | Comments(0)

『蛍日記』

6月3日 水曜日 雨のち晴れ。
9時30分。

満月。
蛍は雨の後、よく飛んでくれると聞いたことがあり、蛍池へ行く。
蛙がないている。
最初はげこ、だったが次第に長回しになっていく、げこげこげこげ。
数も増幅していく、げこげこげこげ。
蛍を飲み込んだりしないだろうか、げこげこげこげ。
蛍の天敵は蜘蛛なんだって、げこげこげこげ。
しらなかったよ、げこげこげこげ。
今日は蛍が見当たらないな。
げこげこげこげこげこげこげこげ。

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by akikomichi | 2015-06-03 22:59 | 詩小説 | Comments(0)

『蛍日記』

6月2日 火曜日 雨。
9時。

雨粒が蛍に見えてしょうがないくらい、光る。
しかし、青白く点滅しないので、蛍ではない。
オレンジ色の外灯の欠片である。
それでも蛍を待っていると、一人のおいちゃんがやってきた。

蛍ば見ようとね。
今日は出とるね。

おいちゃんが話しかけてきた。

まだ、未確認です。

雨粒がついた葉っぱをみながら、外灯を背にして、帽子をかぶったおいちゃんは。

暗闇でよく見えないお顔をにこにこさせているように、思えた。

手になにか持っている。

猩々(しょうじょう)が酒の入った瓢箪をもっているようにもみえたが。

手に持っていたのは、紫陽花であった。

おいちゃんは、

こればやるけん、みつけんしゃい。

と、いいながらくるりと背を向けて帰っていった。

蛍の代わりに、紫陽花が雨粒をうけてちらちらと光っていた。



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by akikomichi | 2015-06-02 23:35 | 詩小説 | Comments(0)

『蛍日記』

6月1日 月曜日 晴れ。
9時半。

蛍が一匹、遮光網の上にとまっていた。
今日も、とろとろと光っている。
三回光り、少し休み、四回光り、また休み。

息継ぎのような光りの点滅が繰り返される。
今日も、蛍が光っている。

点滅することない月。
池に浮かんで光っている月。
下弦の月はいつのまにか丸みを帯びて、もう望月の頃。

蛍が一匹、光る夜。




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by akikomichi | 2015-06-01 22:14 | 詩小説 | Comments(2)

『蛍日記』

5月31日 日曜日 晴れ。
9時。


昨日の蛍が同じ所で光っていた。
踏まれていなかった。
他の蛍が飛び出すことを待っていた。
ここにいるとわかっているのに。
土からはいだしてこないとわからないのだ。
そこにいることも。

去年からよく蛍を見に来られる方がおっしゃっていた。

今年は水の音がしない気がする。
水が流れていないと蛍はでてこないんじゃないと。

蛍は成虫になると水しか飲まないという。
水の流れのあるところを好むのはゲンジで、田んぼなどのためてある水でも生息できるのがヘイケだという。

今ここにいるゲンジは辛うじて、ほそぼそと流れている水の音にひかれて、柔らかい光を放って生きているのだろうか。
蛍の水力発電。
再生可能?
番になり、百匹ほど産んだ卵は小さく光るという。
そのこらの5%が生き残るという。
再生。
再び生まれるこの命。


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by akikomichi | 2015-05-31 22:11 | 詩小説 | Comments(0)

『蛍日記』

5月30日土曜日 小雨のちくもり。
21時。

布団に寝転び、めまいがした気がした。
ほんのすこしの地震の揺れを畳の上で感じていた。

めまいではないことを、地震情報で確認してから、ふらりと家を出た。
蛍に会いにいくために。

一匹の蛍が苗を植えたばかりの田んぼの横の土手にいた。
ほの青くほうほうと光っていた。

ゲンジの雌であった。
雌はあまり飛び回らない。

草場でのんびりと光っている。
ここにいると光っている。

雄は雌をさがすように、飛び回る。
そこを目指して、飛び回る。

しかし、今日は、雌だけが、光り続ける。
ここにいると光っている。

土地の方とよく出会う。
声がしたから蛍を見にやって来た。と笑う。

蛍のお母さんと言われる上司と蛍談義をしていたものだから。
囂しい声が人に届いていたのだろう。

昔は、この辺りには、たくさん蛍がいたんよ。
麦で編んだ籠にいれて遊んだんよ。ほんの80年前のことやけど。

麦が育つ時に、蛍も飛ぶ。
その時にあったものが形作られ、使い込まれて、後に繋がっていくのだ。


蛍のうたを思い出していた。

ほたるこい やまみちこい
あんどのひかりをちょいとみてこい

ほたるこい やまみちこい
あんどのひかりをちょいとみてこい


麦の穂の間をちろちろと光る蛍が漂うのをたよりに
山道を歩いているような

ほんとうはあぜ道にもならない
ちょっとした草道ではあるが

話の間、しばらく光らなかった蛍の雌が、横で静かに光りだした。




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by akikomichi | 2015-05-30 23:06 | 詩小説 | Comments(0)

『蛍日記』

5月29日金曜日、晴れ。
8時半。

橋の上から、水の上を漂う一匹の蛍を見つける。

蛍は水鏡に映しだされ、水と空間に漂う二匹の蛍となる。

今日、弥生時代のものと思われる多鈕鏡の紐を通す穴付近の石型が出土したものを見てきた。

あの石に、火でとろとろと熱くなった青銅が、坩堝から流し込まれ、磨かれ鑑となり、姿形を映し出すようになるのだ。

蛍は柔らかい水鏡に映しだされ、青白い一本の糸のようにつうと、見えない穴を通っていった。


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by akikomichi | 2015-05-29 23:57 | 詩小説 | Comments(0)

『蛍日記』

5月26日・27日 晴れ

11時過ぎから深夜。

蛍も人もいない。

自転車と収集車が通り過ぎていった。

石畳に吸い付くように、可燃物を食べるように。

しかし、蛍は無言を貫く。

昨日より背を伸ばし月腹が肥えたのは気のせいではない。

ふと、亡くなった人を思い出す。

ここをいつも通り抜けた人々。

よお。何してる。

と、もう言わない。

白く濁った老眼ももうない。

帰り際、月に蚊帳をつったような膜がかかっていた。



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by akikomichi | 2015-05-27 00:21 | 詩小説 | Comments(0)

『蛍日記』

5月25日、晴れ。遠くで地震あり。


11:00。
遅すぎたのか。
蛍、翔ばず。
蛙の声だけが響く。
あんまり光るから、蛙がこちらの方へ寄ってきている。
喰われたか。

去年、いや一昨年は猫が水を飲みにやってきていたから。
猫じゃらしにされて、挙句の果て、猫に飲みこまれたか。
あるいは、暑さにやられたか。
と、いいながら。
蛍をずうっと待っていた。

人の話し声も聞こえてきた。
蛍は光ろうともしない。
夜に飲み込まれたか。

虫の知らせよりも、閉店の知らせ。
蛍の光が近くのスーパーで流れはじめた。
シャッターはおろされた。
もう、誰もが帰る時間のようだが。

人の話し声だけが、遠くの方で、聞こえている。





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by akikomichi | 2015-05-25 23:32 | 詩小説 | Comments(0)