カテゴリ:小説( 51 )

以下抜粋

私はプーラン・シングの鍛冶場が好きだった。キクユ族の人たちは、二つの点でこの鍛冶場が気に入っていた。

まずひとつには、鉄という素材のなかでも最も魅力に富んだもののせいである。
鉄は人々の想像力を彼方まで導いてゆくものだ。

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第二に、土地の人々の自然に近い生き方を鍛冶場に惹きつけるのは、その音楽である。
鍛冶のかんだかく快活な、しかも単調で目覚ましいリズムは、神話のような力を持っている。
雄々しさに満ちたその音は、女たちの平衡を失わせ、心をとろけさせる。
その音は率直で気取りがなく真実を、ただ真実のみを語る。

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彼の鍛冶場のつち音は、聞く人の心にそのまま声を与えるかのように、それぞれの人が聞きたいと望む歌になる。
私にとっては、つち音は古代ギリシャの詩の一つを歌っていると聞こえるのだった。その詩を友達が訳してくれた。

「エロスの神は鍛冶さながらにつちを振りおろし
あらがう我が心を火花を散らせて打ち打つ
エロスは我が心を涙と嘆きもて冷やす
赤熱の鉄を流れにひたすごとく」


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オウム

デンマーク人の年老いた船主が、自分が若い頃の思い出にふけっていた。
16歳の時、シンガポールの売春宿で一夜を過ごしたことがあった。
父親の持船の船員たちと一緒に登楼し、そこで中国人の老女と話をしたのだった。
少年が遠い国から来たのだと聞くと、老女は自分の飼っている年取ったオウムを連れてきた。
昔々、私が若かったころ、やんごとない御生れのイギリス人の恋人がいて、このオウムをくれたのだよ、と、老女いった。
それなら、この鳥はもう百歳くらいだ、と少年は思った。
老女の昔の恋人は、このオウムを彼女に送り届ける前に、何かの文句を教え込んでいた。
その言葉だけは、どこの言葉なのか、どうしてもわからず、客たちの誰に尋ねてみても、意味のわかる人は一人もいなかった。
そこで、もう長年の間、女はたずねるのをあきらめてしまっていた。
だが、そんなに遠くから来たのなら、もしかして、これはお前さんのお国の言葉ではないかえ。
そうだったら、この文句の意味を説明してもらえまいかと思って。
そう言われて、少年は不思議な感動に心をゆすぶられた。
オウムを眺め、そのおそろしいくちばしからデンマーク語が洩れるところを想像すると、もう少しでその家から逃げ出しそうになった。
だが、その中国人の老女に親切をしてやりたいという気持ちが、かろうじて少年の足をふみとどまらせた。
ところが、老女がオウムに例の言葉を言わせるのを聞いてみると、それは古代ギリシャ語だった。
オウムはその言葉をとてもゆっくり唱えだし、少年にはそれがわかるくらいのギリシャ語のわきまえがあった。
それはサッフォーの詩だった。

「月は沈み スバルの星々は沈み
真夜中はすでに去り
かくて時はすぎ 時はすぎ
横たわる我は一人」

少年が詩句を訳すと、老女は舌を鳴らし、くぼんだ小さな眼を見張った。
もう一度繰り返してくれないかとたのみ、それを聞くと、ゆっくりと頷いた。

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キクユ族はもともと死者を埋葬せず、地上に置いたままにしてハイエナやハゲタカが食べるにまかせる。
私はこの習慣を好ましく思っていた。
太陽と星々の光にさらされて横たわり、短時間のうちにきれいさっぱりとたべられて消滅し、そして自然と一体になり、風景の一部と化すのは、楽しいことではないか。

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「嘆きの歌を変えよ
よろこびの調べに
われはあわれまんとてきたらず
楽しみを求めて来るならば」


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「死にあたり
火はわがむくろを犯せども
われ心にとめず
今はすべてのもの、
われにとりてよければ」


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by akikomichi | 2017-09-17 14:12 | 小説 | Comments(0)

以下抜粋。

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ワシの影は平原を横切り
かなた、名もない空色の山々に向かう
ひとむれの若いしまうまの影は
ほそいひづめのあいだにしずまり
永い一日を動かずにいる
この影達は夕暮れを待つ
夕日が煉瓦色に染め上げる平原に
青く長く自らの形を延ばし
水場をさして歩いて行く時を待つ




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「さあ一緒に出かけて、生命を不必要な危険にさらしていただけないかしら。もしも生命になにかの価値があるとしたら、生命は無価値だということこそ、その価値なのね。自由に生きる人間は死ぬことができるという言葉があるでしょう。」
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by akikomichi | 2017-08-28 23:32 | 小説 | Comments(0)

「黄色い日々」梅崎春生

(あいつは助かったんだな、あいつは)
それは麻痺性痴呆の病名をもって、A級戦犯の法廷から除外された男であった。この男がM病院に収容されていることは知っていたし、直線道路の彼方にその姿を見たとき、彼はすぐその男であることを直覚した。長身のその姿は、冷たい風のようなものを漂わせながら、近づいてきた。すれちがうまで彼ら三人は、しんと口をつぐんで歩いていた。
(どうしてあのときおれたちはしんとしてしまったのだろうな)

梅崎春生「黄色い日々」より抜粋


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なんとなく、梅崎春生「黄色い日々」を読んでいた。

「幻化」「桜島」なども読みつつ、戦争の後始末としての東京裁判についてふと思った。


誰が、生き残ったものを責めることができようか。などとおもいながら、これを繰り返し読み返していたのだ。

おそらく、梅崎の残した小説から鑑みると、上記の男は、大川周明のことであろうと思われるが。

東京裁判を生身で知っているものは、半ばあきらめのような、どうしようもない押し付けられた裁判を、生で、引き受けてきたのであるから、それを卑怯という単純な暴言を吐き捨てるだけでは、あまりにもそこが浅いようにも思われる。

たとえそれが、現人神、言ってみれば超A級戦犯的存在であったとしても、罪や罰というものを、他から受けつつ、生き残ったもの自らの中に課している様々な償いのようなものを見ようともしないのは、あまりにもそこが浅いと言わざるをえない。

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by akikomichi | 2017-08-14 00:01 | 小説 | Comments(0)

『墓がない』

夢野久作の墓を見た。

博多にある一行寺に眠る、杉山家の墓。

入り口から入ってすぐの左側にあった大きな墓。

身体にあった大きさであったのだろうか。

巨体であった久作にあった、大きなそしてすこうし寂しい冬枯れた墓であった。

花を持ってくればよかった。

土から生えたばかりのうねったような花がいい。

死者の血肉を吸っているのかしらぬ存ぜぬと咲いた、するりと咲いた花がいい。

金文字で、杉山家の墓とわかるように彫ってあった。

久作は、玄洋社にも関わりのあった父親の杉山茂丸をはじめ、その一族の方々と、仄暗い墓の中、胎児の夢でも見ているのだろうか。


そういえば、ボルティモアの海の見える坂道を登って、丘の向こうにある教会の墓地に、ポーの墓はあった。


墓に辿り着く前に、夕方5時ごろの終わりがけの市場でクラブケーキと一緒に、ポーの顔の張り付いたラベルの瓶ビールをかっくらってきたばかりであった。

生牡蠣をしゃぶりつくしたかったが、夜遅くなるとここいらは意外と暗闇が深いということで、ポーの墓にたどり着くかどうか、わからないので、角打ちのように、たったまま、食らいつき、瓶ビールを空っぽにしたわけだ。


市場を出て、すぐの道でバスを待つ、米国の女学生に、ポーの墓はどこかと尋ねると、すぐそこよと、一人の赤毛の女学生が、道を挟んで建っている教会のような建物のある敷地を指差した。


入ってすぐに墓はあった。

一つは入り口のすぐ右に、もう一つは小道を逆L字型に辿った先の墓地の奥に。

墓地の奥から、入り口にうつされたと聞いたが、二つの墓に入ったものの、一度は掘り起こされた後、生き返ったわけでもなく、骨だけとなったポーは、壁からこぼれ落ちたものの気持ちを、現実においても味わったということにもなろう。

墓案内には、大鴉が、遠ざかる影のように、小さく張り付いていた。




作家とは、自分の書いたもののなかで生き続けるが、また、死に続けるものなのだ。

さしづめ、物語は、作家の墓標である。



ところで、私には、墓がない。

まだ、物語さえ、はじまっていないのだから。


こどもには、いつか何千度かわからぬか高温で焼かれるか、どろどろと地下深くねむり石化した私を吸い上げるなり、差し歯のように小さくなった私を形見あるいは二人それぞれに割ってもらって片身にして禍々しき魔除けのように持ち歩くなり、護身用に尖った石斧に加工するなりして欲しいと、言ってはいるが。

私には、墓がない。

入るべき墓がないのである。

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by akikomichi | 2016-02-10 23:21 | 小説 | Comments(0)

なぞなぞを

なぞなぞを よるになったら しろいめできて あかめでさるものなんでせふ 
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by akikomichi | 2015-12-19 23:15 | 小説 | Comments(0)

この国の崩壊の手前。
見えにくい、いるかいないかもさだかではない子豚とサイクリングしていた。

知人Kが死んだのは、船がたどり着いてからだ。
動力も疑わしい、小舟に乗ってやってくるのは密航者。
難民ではない。
工作好きな密航者。
何を作りたいのだろう。
理想の国家か。
いやそうではないだろう。
理想などなく、ただ生き残るために。
潜水艦から核爆弾でも撃って、地を揺るがし、徐々に壊していくために。
五、六年先を狙っている。
気をつけろ。
あいつらは、なんだってやる。

無性に、知人Kの声が聞きたくなった。

男Hは、わけもわからず、自転車で街中の暗そうで暗くない道を走っていた。

市場近くの、「まるいわ」、深夜営業をやめるという看板が出ている。
知人Kが昔、連れて行ってくれた店。
国際とか和をむやみに強調する時、どことなく不自然な気がするんだよね。
ぱちんこ屋の多角経営している店に多いからだろうけどさ。
と知人Kが、話していたのを思い出した。

あの店は、ぱちんこ屋でも厳しい季節になったきたのではないのか。
北の寒い国から来た者達の寒い季節がやってきたというのだろうか。

それにしても、あの死者を乗せてやってきた小舟の人たちは、この国で儲けた資金を、受け取りにでも、ここにもきたのだろうか。
小舟に乗って。
はるばると。
ATMと化したぱちんこ屋に辿り着く前に、死んでしまっては、持っても帰れまいが。

コンビニに夜の営業を取られたのだろうが、銀行業務で、みなごまかしが効く営業に切り替えているというのに。

未だに、公費を投資でぶっ飛ばす、いや、ぶっ飛ばされたふりをしている、この国の行方。

武器で使い込み、政治工作で使い込み、公務員の給料に使い込み、ただたんに、外資にうわっパネを引き出されただけにしろ。

子豚どころか、魂などどこにも、見当たらない。

国境や国内外の見張りをするところが間違っているのにも気付かないとは、「方向性」が間違っている。

何億かしらんが総監視社会の到来。

データ流出も不意にか故意にかを装い、もともとツーカーの駄々漏れの監視社会。

息苦しい。夜の道を通りながら、男Hは、何もつくりだすことのない行為にうんざりしていた。


手を変え品を変え、パチンコ資金やら脱税やらを元手に、せんきょに打って出る。
今度はどこかのアナウンサーを起用するらしい。
以前は、報道関係者だったが、この国は、よその国のものに遠隔操作され、ほぼ乗っ取られているのを間近に知ったのも、知人Kからだ 。
翻訳の仕事上、生き残るためにか、知っていながら、知らぬふりをしていたのだろうが。

どちらにしろ、みえないようにくちをふさがれ、きこえないようにめをつぶされたものには、同じようなものだが。
南の国のものは、胃袋でせんきょをささえ、飼いならす、背乗りの「遺伝子組み換え」の餌を与えるように。

アナウンサーも、お世話になっているのだろうか。
あー めん もついかしてね。とばかりに。

食レポは、己のいきのかかった店にして。
ホロホロに煮崩れた毛をむしられた首のない腹に薬草をつめ込まれた鳥を喰らえと言いやがる。
ゴスペルを歌いながら、懺悔しろというばかりに。

一体何に懺悔しろというのか。

捏造され続けている過去に。

己は、過去を消し去った、背乗りの、魂をなくした子豚とかしてまで。

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by akikomichi | 2015-12-01 22:40 | 小説 | Comments(0)

子豚は焼豚になったように真っ暗な闇にまぎれて見えない。

男Hの妄想でしかなかったのであろうか。

また、日が昇れば、見えてくるものなのだろうか。

男Hは、子豚がいようがいまいが、どうでもいいというように、走り続けた。

もしかして、正気を取り戻しつつあるのかもしれない。

と男Hは思いつつ、あの時、子豚に見えたものは、知人Kが翻訳していた物語の続きにも思えてきた。

確か、豚とバイクが出てくる話だった。

男Hは、バイクではなく、自転車に乗っているのだが、あの子豚は、もしかして知人Kの魂であったのかもしれない。

しかし今、見えなくなったのだから、男Hが栄養失調で急に鳥目になったのでないかぎり、知人Kの魂は死んだ。

確実に死んだのだ。と思った。

すでに、焼き場で焼かれたのかもしれない。

男Hは、そう思えて仕方がなかったのだ。

物語が実存する時。

しっそうするのは、人の魂のようなもの。

えらく、物語の翻訳に肩入れしていた知人Kは、もしかして、「何か」に触れたのではないかと思った。

むこうとこちらの間にある知らない橋渡しをさせられていたのではないか。

と、男Kは正気づいてきた頭で、その「何か」を考え続けていた。



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by akikomichi | 2015-11-15 21:48 | 小説 | Comments(0)

雨も小ぶりになってきた。

永遠に店を開けないようなので、蕎麦屋をあとにして、子豚とまたサイクリングを始めた。

季節によってはゲンジボタルが翔ぶ川の近くを通り、猫峠が見えてきた。

昔通った時、ゲンジボタルは橋の上をただようていた。

蛍に筋肉があるわけではないが、腹が横線に割れており、その腹割り線二つ分が光るものが雄、一つ分光れば雌だったか。

雄は小さく、どこまでも飛び回り、雌は川辺の草場でじっとその時が来るのを待っているのだ。

一つの魂がもう一つの魂に吸い寄せられるように闇の中をただようていた。

はなればなれであった魂が集う、墓場のようであったが、墓はなく、野ざらしのままの魂。

点滅する魂。

もうすぐこの世からいなくなる夜にだけ気づく魂。

魂は、夜の虫の腹の中にも収まっていたのだ。

などと、思いつつ、いつも、夜にしか通らないので、どこをどう通ったかもよくわからないまま、いつのまにかたどりつく、猫峠の曲がりくねった坂を登ろうかと覚悟を決め、走りに速度をつけていった。

民家が疎らにあった。

集会場の光が見えた。

そこからの帰りの人が歩いていたが、人の目に光は見えなかった。

子豚のように。

真夏の手前の夜、橋の上にでもこぼしてきたのだろうか。


しばらく走っていると、暗闇の中、二つの小さな光を見つけた。

蛍火のように漂うことなく、じっとそこで待っていたように青白く光る光。


野生の子鹿の目の中の、夜にだけそこにあると気づく、魂のようなもの。


我に返ったように、子豚の目を覗き込もうにも、前籠の中の塊は、真っ暗で何も見えないのだった。

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by akikomichi | 2015-11-13 22:04 | 小説 | Comments(0)

魂が子豚。子豚の魂百キロまで。

とは言わないが、自転車を漕ぐ足にねっとりとまとわりつく子豚を含めた男Hの重みが坂道を登り切れず、雨足に先を越されて、へたり始めていた。

仕方なく男Hは、誰もいない、りんごの木だろうか、柵の向こうには果樹園があり、その道端に戸が壊れている誰も使っていないような掘っ立て小屋を見つけ、そこで一息つこうとした。

十割蕎麦あり〼

の看板が、掘っ立て小屋の壁にあった。

それにしても、この小屋で蕎麦を打つにも、戸が開け放されているので、別のもの、いわゆる天の恵みの雨風、砂、砂利、土、虫、雑草、苔、胞子、黴、塵、芥を含めた大いなる森羅万象が空を切りながらも、混ざるに違いがなく、9.5割くらいにしといたほうが現実的な気がしたが、すでに、店じまいされてから十年は経っていそうな趣があり、十把一絡げな看板でも、誰も困らないようだった。

自転車を軒先に置き、中に入るのは、憚られたので、自転車にまたがりながら、雨が降るのをじっと見続けた。

他に何もないのだ。雨音と闇しか。

死んだ知人Kは、今どこで何をしているのだろう。

と思った。死んでいるのに。何かをしている気がしてならないのだ。

炬燵の中で死んだ知人Kは、心臓発作であったという。

心臓に穴が空いても、生きていそうであったのが、気になるのだ。

死後硬直のあと、座ったまま、何かを訳そうとしている気がしてならないのだ。

死と生の間には、何かあったのか。

最後に、何を見ていたのか。

最後に何を、書いたのか。

男Hには、確認したいことが、掘っ立て小屋から開け放たれた戸から、はみ出るぐらいあった。



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by akikomichi | 2015-11-12 13:50 | 小説 | Comments(0)

子豚には目がなかった。

暗闇に光る目がなかった。

ただ、雨にはじける皮の薄さが痛々しい。

昼間だとわからなかった青白さだ。

通り過ぎていく家々からこぼれてくる明かりと車のライトが拾う青白さは闇を薄めた分だけ、肌身に染み込んでいるだけなのかもしれない。

もう、とっくに死んでしまっているのだろうか。

子豚の魂のようなもの。

枚数を稼げば、金になるらしい物書きにはなりたくない。

と知人Kは、いっていた。

文字数でいくらなんて、計り知れるものなのかね。そんなものが。

と。確かに、文字数だけでは、物足りないものだ。

苦し紛れに書きたくもないのに描かれたものなら、なおさら。

男Hは、苦し紛れにペダルを漕いでいる己の目だけは、青々と光っているに違いない。

と思った。

子豚と違って。

生きているものと死んでいそうなものとの境に目があった。

魂は目に宿るのではなかろうか。

男Hは、なんとはなしにそう独り言ちた。

さすれば、子豚は死んだ魂なのであろうか。

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by akikomichi | 2015-11-11 21:33 | 小説 | Comments(0)