「初夢を忘れてしまったから」

初夢を忘れてしまったから、もう一度だけ、夢を見ようと思うの。

と、彼女はひとりごちた。

私は、忘れてしまうことができない夢を見続けているような心持ちになった。

これまでの月日は、彼女にとっては忘れてしまった初めての夢よりもなおきれいさっぱりとしたものになってしまっていたのだけれど、私はまだ夢から覚めないまま、ずっとここにいたのだった。

彼女は私から離れていこうとしていた。体はもちろんのこと、心までも。

私は、彼女をとどめておくことができなかった。

なぜなら、彼女は初夢をすでに忘れてしまったように、私をも忘れ去ろうとしているのだから。

私は、彼女の初夢であったかのように、彼女の前から、姿を消すことになるのだ。

跡形もなく。

そして、彼女がもう一度見る夢は、一年に一度巡ってくる、初めての夢のように、思い出せなければ意味のないような、あるような曖昧な記憶の空(うろ)に溶け出していくようなものであるようで、夢を現実と見紛うような、夢を実現し、現実を超えたところに連れて行かれるようなものであるならば。

私は、もう一度見ようとしている夢に消されてしまうような、儚いものとなるのは確かなことなのだった。

私は、彼女の中には、いなくなるのだ。

私は、私でしかなくなるのだ。

そうして、初夢ではない、時々、デジャヴのように、いつか見たことがあるような、ないような、幽かな夢のようなものになるのだ。



それから。

彼女は、三が日を過ぎてから、初夢を忘れてしまった証のように、長い夢を見ていたような私の前から姿を消した。

緑の枠に収まった昔の名前を思い出したように。

かつての戦争の時のように、生きていくためにと、死の戦場に繰り出されるまえに届いた赤紙のように、赤い枠にはめ込んであった私たちの家族という形を、忘れてしまったかのように。

[PR]
by akikomichi | 2018-01-02 17:42 | 詩小説 | Comments(0)