「月蝕」

ハサミを入れる皮の入れ物の修理を個人でカバン作りをしている方に頼んでいた。

汗で皮が溶け出したようにしてできた穴が鋲よりも大きくなった。

地球を飲み込んだ影のように、ぽっかりとした見えない闇を作り出していた。

月を蝕うような闇が底なしの穴を作っていくような夜に、人工の小さな太陽の光を溜め込んだようなコンビニエンスストアで待ち合わせをしていた。

彼女はすでに来ていて、雑誌のところに立っていた。

私は、ハサミを入れる皮の入れ物の二つの穴を埋めた、新しい皮に縁取られた白いステッチが手縫いであることを教えて貰った。

柔らかい白い線に縁取られた二つの鋲は、銀色に光っていた。

彼女が、一つだけ打ち込む時に凹んだといった。

ハサミがあまり良く切れず、新しいハサミを手に入れたばかりだったので、ようやく、おさまるところを直してもらったのだから、それくらいのことはよしとした。

彼女の作る手作りの鞄も秋頃にはできるという。

一つ一つ形を作っていくことの喜びを知っている人は幸いである。

私は、茅葺の屋根を見るたびに一つ一つの茅の収まりどころを思った。

重なっていく茅の重みと竹の押さえ。

一つ一つの茅になったように、見続ける毎日を過ごしているうちに。

いつの間にか、私は茅葺の屋根になっていくような、茅葺そのものになっていくような気になってくる。

雨にさらされ、強い日差しにさされ、風を受けて、そこにいるのだ。

などと思いながら、明るすぎるコンビニを出て、真っ暗な山道を車で駆け登っていくと、異様に黄色く光る月が出ていた。

もうすぐだった。

夜中を過ぎてから、月蝕が始まるということを思い出していた。

地球の影と月が重なる時。

私たちは、それぞれ闇を孕んで向き合うように、月が闇に喰われてしまうのを恐れもせずに、そのまま、そこにいた。




















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by akikomichi | 2017-08-08 02:10 | 詩小説 | Comments(0)