「桜桃の味」を忘れないように

「桜桃の味」を忘れてしまっていた。

アッバス・キアロスタミの映画。

死に場所を探して、死を下すものを探して回る男の話。

はげ山の坂道の途中に穴を掘って、そこに横たわる男。

そこから夜が更けていくのを眺めて、返事をしなかったら、穴に土をかけてくれるものを、朝まで待つために。

その嘆き。は、ひっそりと、生きているように見えながら、その実、死んでいるものを作る剥製屋が土をかけに来るのを待つために。


奥底に寝転がった「桜桃の味」の記憶を呼び起こすために。

現実の、嘆き続ける死よりも、桜桃の味を忘れないように、生きるように。

あの残されてしまった可愛い子に桜桃をあげたのかもしれない。

笹の葉が雨で揺れて、濡れて、滲んでしまった、七夕の短冊に書いた見えない思いのように。

生きて桜桃の味を忘れないように。

あの小さなリボンのよく似合う可愛い子が生き生きと生きるように。

甘い桜桃の味を忘れないように。





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by akikomichi | 2017-07-07 21:21 | 詩小説 | Comments(0)