「蝶よ蛾よ」

窓のすぐ近くのカーテンにいたセミのような蛾。

あれは、ひぐらしに寄生するというセミヤドリガだったのだろうか。

セミのようでセミではない、卵から幼虫、蛹、成虫へと完全変態を遂げた、セミの抜け殻ではなくセミそのものを取り込んだもの。

あるいは、飼われていたカイコガが、奇跡のように煮られることなく、吐いた絹の繭を身ぐるみ剥がされることなく、自分で繭の殻をつきやぶり、這い出てきて、そこにいたのだろうか。

友達が死んだのは、三年前のことだった。

彼女は黄色い羽の生えた蝶々のような着物を着て、花に囲まれて、棺の中に眠っていた。

彼女は美しいものに囲まれて暮らそうとしていた。

美しいピアノ、美しいヴァイオリン、美しいレンガの門のある庭、美しい薔薇の似合う花壇、それから、美しい整えられた顔と所作と着物と。

人が作り上げてきた美しいものたちに囲まれて、彼女は暮らそうとしていた。


彼女は、今、この世にはいないのだが、時々、黄色い蝶々を見つけると、彼女のことを思い出す。

いや、彼女のことを思い出している時に、黄色い蝶々が飛んでいることがあった。

プシュケーは魂で、天使で、蝶々のようなものの象徴とユングは言っていたが、彼女の魂がもしあるとするならば、そういう軽やかな化身であってほしいと思うが。


蛾は、さすれば、現生の私の魂のようなものかもしれないと思う。

かき集めた茅をまとったミノムシのように、この世にぶら下がったままの魂は、今、春に吹かれているところ。


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by akikomichi | 2017-03-06 16:57 | 詩小説 | Comments(0)