「介護日記」

第一回プラチナブロガーコンテスト



ばあばはいつも海に背中を向けていた。

せっかく、海が見える部屋にいるというのに。

夫とお見舞いに行くと、夫はおきまりのように窓辺の椅子に腰掛ける。


ばあばは、向き合うのが、恥ずかしいのか、いつも振り返りながら話していたのだが、今日はおもむろに立ち上がり、ゆっくりと歩き出したかと思えば、真反対のベットサイドに移行し、夫と目と鼻の先になるように、膝を突き合わせて座ったのだった。

何か話したかったのだろう。息子と。

私は、審判か行司のように、壁際にある椅子に座って、その家族の風景を見守っていた。

じいじの細やかな料理の技に対する一通りの想い。


今さっき、お父さんは帰ったところなんだけどね。

お父さんはね、いつも、人参の型を取るのはいいんだけど、その型を取った残りの枠の方を、抜け殻になった風景の方を、刻んだ肉や豆腐とかと一緒に煮込むのよ。私、それが嫌なの。あの空洞の風景みたいなのが。せめて同じように細かく刻んでほしいの。抜け殻を食べるみたいでなんだか嫌なの。あの人は、それもまた綺麗だからいいじゃないっていうのだけど。私は嫌なの。


じいじは、比較的簡単にできると思われる、お雑煮は面倒だからと作りたがらないが、手間暇のかかる栗きんとんや、煮物や酢の物に使うお野菜は一つ一つ丁寧に型を取って、鶴や松や梅などをあしらって、野菜すらも、美しく飾ろうとするのだった。


夫は、頭を猫のようにかきながら、ばあばの話をぽりぽりと受け流すように聞いていた。


ばあばは一通り話すと、ほぐれたように笑い出した。


突然、ドアが開き、看護師さんが、長いドレスのような、魚屋さんの前掛けのような制服でやってきた。


食事にはまだ早いと思ったら。



お風呂の時間です。


と看護師さんが、威勢のいい声で言った。




アート・デザイン部門







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by akikomichi | 2017-01-04 22:13 | 詩小説 | Comments(0)