『盲者の行進』

老婆は、信号を探していた。
歌のなる方へ。
杖をつきつつ地面にある凸凹のタイルを頼りに。
行きたい所はあるようで、ない。


ただ、目の前にある道を渡りたい。


そう思ったのだった。
自転車がすぐ後ろを通り抜けていく音と風がする。
今、振り向いたらいけない。
違う音が聞こえるか聞こえないかでなく、永遠に聞こえなくなるかもしれないのだ。
音と杖が頼り。

人はいるようだが、頼りにならない。
一人の人が近づいてきた。


この道を渡るのですか。
私も一緒に渡るので、よかったら、腕をどうぞ。


匂いがきつい。
女だ。
うわずってぎこちない声。
なれていない。
見えないものとの交信。


そうです。
今、信号の音がなりやんで、どっちに行けばいいかわからなかったのです。


信号の音が大きくなりだした。前へすすめの合図。
女は老婆に自分の腕を強引にもたせ、道を渡りだした。

道に印はない。
ただ音だけがする。
人がうごめく気配が今、この道を渡ってもいいという徴。


ここからは、右に行きたいので、それでは、どうも、さようなら。


一瞬、一瞬の見えない行進。








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by akikomichi | 2015-06-25 16:23 | 詩小説 | Comments(0)