ミトコンドリア呼吸欠損の原因に関する新仮説

先日、筑波大学をはじめとする研究チームは、人間の加齢に伴うミトコンドリア呼吸欠損の原因に関する新仮説を発表した。これは京都大学iPS細胞研究所や理化学研究所と共同で進められ、電子版科学誌『サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)』に掲載されたもので、新たな仮説は、ミトコンドリア呼吸活性低下の原因が突然変異ではなく核遺伝子の可逆的変化であることを明らかにし、このことは細胞の初期化により老化もリセットできる可能性を示唆している。

老化現象はミトコンドリアDNAが原因?

ミトコンドリアは、“細胞内のエネルギー工場”として知られる細胞小器官で、呼吸により生命活動のエネルギー源となる化合物を合成している。ミトコンドリアには核にある遺伝情報とは別に、独自の遺伝情報(ミトコンドリアDNA; mtDNA)が存在しているが、このmtDNAに突然変異が生じると、呼吸活性低下からエネルギー欠乏となり、エネルギー需要の多い脳や筋肉を中心に脳卒中、知能障害、筋力低下、高乳酸血症などを発症する。これらの疾患はミトコンドリア病と総称され、突然変異が原因となる場合は先天的で母親から子どもに遺伝する。

また、定説とされる『老化ミトコンドリア原因説』によると、私たちの老化現象にもmtDNAの突然変異が関与している可能性が指摘されている。加齢に伴う呼吸活性低下や老化そのものは、年齢を重ねるとともに後天的にmtDNAに蓄積する突然変異が原因であると考えられてきたのだ。

しかし、研究チームは、この仮説の根拠となるmtDNA突然変異と老化との因果関係を直接証明する実験結果が報告されていないこと、老化は突然変異のような偶発的プロセスで起こるとは考えにくいこと、の2つの理由からこの定説を再検証した。

iPS細胞にする初期化で原因は可逆的な変化だと判明

研究では検証のために胎児から12歳の若年グループと80歳から97歳の老年グループ、それぞれの繊維芽細胞を使用し、老化の仕組みに関するいくつかの点を明らかにした。

まず、2つのグループ間で比較すると、老年グループでは確かに呼吸欠損が生じているが、mtDNAでの突然変異の蓄積率に有意な差はなかった。次に、加齢に伴う繊維芽細胞の呼吸欠損ついては、いったんiPS細胞にしてから再度繊維芽細胞にすると回復したという。このことから、原因は突然変異のような不可逆的な変化ではなく、可逆的な変化だと考えられることになる。

mtDNA ミトコンドリア 老化

最後に、可逆的に発現が変化する原因遺伝子の1つは、ミトコンドリアのグリシン代謝に関係することが分かった。そこで、培養液中にグリシンを添加したところ低下していた呼吸活性が回復する現象が見られたということだ。この結果は、継続的なグリシン摂取が老化の緩和戦略として有効である可能性も示唆している。

以上の結果から、加齢に伴う呼吸欠損の原因は突然変異ではなく、遺伝子の発現が制御され細胞分化が進行する「ゲノム修飾」である、という新仮説に至ったということだ。今回の新仮説は、あくまで繊維芽細胞の呼吸活性低下の仕組みに関するものであり、老化現象そのものにも当てはまるかは今後の研究が必要だという一方で、原理的には、体を構成する細胞を初期化し再分化することができれば、その細胞の若返りも可能になるとしている。


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by akikomichi | 2015-06-17 09:26 | 日記 | Comments(0)