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『蛍日記』

6月2日 火曜日 雨。
9時。

雨粒が蛍に見えてしょうがないくらい、光る。
しかし、青白く点滅しないので、蛍ではない。
オレンジ色の外灯の欠片である。
それでも蛍を待っていると、一人のおいちゃんがやってきた。

蛍ば見ようとね。
今日は出とるね。

おいちゃんが話しかけてきた。

まだ、未確認です。

雨粒がついた葉っぱをみながら、外灯を背にして、帽子をかぶったおいちゃんは。

暗闇でよく見えないお顔をにこにこさせているように、思えた。

手になにか持っている。

猩々(しょうじょう)が酒の入った瓢箪をもっているようにもみえたが。

手に持っていたのは、紫陽花であった。

おいちゃんは、

こればやるけん、みつけんしゃい。

と、いいながらくるりと背を向けて帰っていった。

蛍の代わりに、紫陽花が雨粒をうけてちらちらと光っていた。



by akikomichi | 2015-06-02 23:35 | 詩小説 | Comments(0)