『ナイフの使いよう』

子どもがまだ言葉を喋れない時、変なナイフの絵本を読んだことがあった。

子どもにせがまれたのではなく、ともだちが面白いからと教えてくれたので読んだのだった。

ナイフがぐにゃりと曲がったり、溶けたりするのだが、なにが面白いのかがその時はちっとも分からなかった。

既成概念を超えたところが面白いのだと言われたが、既成概念を取り込もうとしている子どもにもピンときていなかった。
ように見えた。


しかし、今朝、ようやく、わかった気がした。

よく知らない誰かが背後からやってきて、私をさしたのだった。

いざというときの為に、ナイフを使うという格闘技か武道か知らないものをしているような、手慣れたナイフの使い方で、私の背中をさしたのだ。

目に見えない悪意というものはあるのだ。

人の血肉をえぐるまで憎しみを持つということは、おそらく、そういうことなのだろうが。

私には、よくわからない憎しみなのだった。

いざというときの為に。

面白い仮面を被ったものが脱ぎ捨てた、どす黒い川に流された白々しい一皮被った仮面。




たしかに、そのナイフは、私の中で、ぐにゃりと曲がり、血肉に融けだしたようだった。

既成概念を越えるということは、身を持って知るということであった。


今度はその白々しい面白い仮面を脱いだ、本当の、素顔の憎しみのようなものが見たいものだ。

私は振り返りながら、心の底から、そう思った。


そこに、知らない男が、ナイフを持ってたっていた。



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by akikomichi | 2015-05-09 22:37 | 詩小説 | Comments(0)