『羊の時』

羊の頭のスープを飲んだことがある。

大きな人一人が膝を抱えて入れるくらいの煮込み用鍋は濁って泡が地獄のように湧き上がっていた。

シシカバブを食べようと、ふらりと立ち寄った店での事だった。

シシカバブを頼み、バターライスの上に、串刺しで焼かれていただろう羊肉がもっさりとあぶらをぎらぎらさせてのっかってでてきた。

紫がかった生の玉葱をかじり、油にまみれたシシカバブにライムを絞り、フォークとスプーンでガシガシと食べだした。


その時、店のものがおもむろに、窓辺にある湯気の立ち上がる大鍋の中から羊の頭を持ち上げたのだ。

夕暮の車の行き交う排ガスも遮断された窓の向こうの景色を背後に、その羊の頭は目のない暗闇を持ち上げられ、こちらをじっと見ているようだった。


今、お前の食っているものが、私の肢体だ。


と、その目のない暗闇が語っているようだった。

私は、どうしようもない暗闇を余すことなく喰らうように、そのスープを頼んだ。

湯気の立ち上るコンソメ色のスープに白いふわふわしたものが浮かんでいた。

髭の生えた店の者が、ニヤリと笑った。

羊の白い脳はおいしいですよ。

とスープに特別に入れてくれたのだった。


夕暮れ時、羊の脳内記憶が、一口づつ、口述筆記をするように、私の中に溶けていった。





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by akikomichi | 2014-12-31 20:40 | 詩小説 | Comments(0)