めでたい己

どこにいってもいない
もぬけの殻の大陸の人たち
夜どこから奇襲をかけられるかわからないなか
とぼとぼと歩いた
ぬかるんだ道を歩いた
と在宅介護をしていたじいちゃんからきいたことがある
点と線というよりも
知らないところを怯えながら
ひもじい思いで重い荷物を背負わされて歩きまわっていた
時には人をからって
馬の好きなじいちゃんの話を聞いた
人はまだいい
ひもじくとも食べ物をすこしはわけてもらえたから
水も飲めずに死んでいった馬もおった
とじいちゃんはいった
あんたのいう殺戮は
どこの殺戮だ
記録映画という作りこまれたフィクションの中の殺戮を見て
酔いしれているのは己の方だ
そこにいたわけでもないくせに
映画の中の不気味な殺戮を見たこともないくせに
芋の子洗うように死んだものなど誰もいない
人の子一人も見つけられない暗闇の中を
見えたり見えなかったりした石を投げつけられるだけの
貼り付けにされる生贄のように
死の行進のように歩いて
飢えて疲れ果てて死んでいった
蟻の兵隊のようにとぼとぼと歩いただけだった
とじいちゃんはいった
日本に帰ってきた時
舟に乗る前に水をやった馬のことを思ったと
じいちゃんはいった
記録映画のフィクションを信じこむ己はめでたい
ころころっと映像にだまされて
あたかもそれが本気でなされていたと思うのか
鼻息の荒い死人のように
これでもかこれでもかと悪魔の烙印を押し続けることだけが生きがいの
陶酔しきっている己は本当にめでたい
惨めに死んでいった蟻の兵隊のことも知らずに


[PR]
by akikomichi | 2014-11-23 19:57 | 日記 | Comments(0)